2017年7月23日日曜日

【第730回】『人材開発研究大全』<第4部 人材開発の創発的展開>(中原淳編著、東京大学出版会、2017年)

 第4部では私企業以外の組織における人材開発の取り組みが扱われている。だからと言って、私企業の人事・人材開発には関係がないということではない。むしろ、様々な観点から異なる組織における取り組みや研究を学ぶことで、マネジメントや人材開発といった事象を一歩引いて見ることができ、射程範囲が分かるようになるのではないか。個人的には、どのような組織であれ、組織と人に纏わる事象は近しいものがあり、学べるものが多かった。

 第33章では、第3部 管理職育成の人材開発で挙げられていた異業種のリーダーシップ開発の取り組みが行われた美瑛町において、参画していた同町の職員にとってどのような学びがあったのかが事例として述べられている。美瑛町の取り組みは、これまで企業目線でしか意識していなかったため、地方職員にとってどのような学びがあったのかは新鮮であり、興味深かった。

 特に、研修終了後に実施された質問紙調査において、「与えられた仕事の「組織にとっての意味」を考えて行動するようになった」という項目で民間企業と地方職員の参加者とで比較すると優位に後者が高くなったという。日常的な業務で裁量の余地が広くない状況が多い地方職員にとって、プロジェクトワークでのアサインメントによって文脈や背景を考えながらゼロから物事を構築していくという学びが得られたのであろう。

 これは何も地方職員だけに限られたものではないだろう。同じような職務アサインメントにならざるを得ない環境の組織にとって、こうした異業種間のプロジェクトワークからマインドセットを学ぶことができると考えられるのではないか。このように考えれば、理論的意義に書かれている以下の箇所は、地方職員に留まらず組織におけるリーダーシップ開発に援用できると考える。

 本研修を通じて、越境型・ワークショップ型の課題解決研修が、地方職員の人材開発に有効に資することが改めて確認された。特に、「与えられた仕事の組織にとっての意味を考える」ことを促し、仕事の意義を再度検討することで、一段俯瞰した広い視点から業務を捉えるとともに、より主体的な関わりを引き出すことが確認された。(845頁)

 もちろん、プロジェクトを異業種からの参加者でワークショップ形式で進めれば効果が担保されるというわけではない。本書の実践的意義で書かれているように、課題の共有や学習コンテンツ以外にも、メンバー間のチームビルディング、内省を促す仕掛け、相互フィードバックの実施といった要素をどのようにデザインするか、が問われる。

 こうした要素を挙げてみると、昨年の秋に伺った女川町での事例が想起される。東日本大震災後からの女川町の復興は、ハーバードでのIXP(Immersion Experience Program)で訪れる地域の一つに選定されている通り、リーダーシップを涵養する事例として有名だ。昨秋に女川町の様々なリーダーとの対話セッションを行って感じたのは、同町では、行政・民間・NPOが立場や年齢を超えて相互に言い合える関係性を構築しているようだった。こうした関係性を基軸にして、共有できる目的を絶え間ざる対話によってすり合わせながら分有したことが、大きな成功要因だったと感じた。


 地方だからとか、公務員だからとか、中小企業だからとか、ビジネス環境が良くないから、といった外的な要因によってリーダーシップ開発ができない理由を述べても意味はない。どのような状況でも、上述したような要素を組み合わせることで、現状に即したリーダーシップ開発ができるのではないか。自分への警句として書き留めておきたい。


0 件のコメント:

コメントを投稿