2017年1月7日土曜日

【第666回】『ビギナーズ・クラシックス 方丈記(全)』(武田友宏編、角川学芸出版、2007年)

 「行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。」で始まる一節は、中学や高校で学んだことを記憶している方も多いだろう。しかし、方丈記を全て読んだことがある方はどのくらいいるのだろう。

 本シリーズでは、日本や中国の古典をカジュアルに学ぶことができるありがたい企画に基づいて創られたものである。入門として学ぶには最適なシリーズであり、本作では方丈記を通して触れることができる。

 「無常」という真理の限りない広さと底知れぬ深さとを、人生観の大前提に据えなければならないと考えているからだ。長明にとって「無常」なしの人生はありえない。「無常」だからこそ人生は生きる価値があり、生きる喜びも生まれてくる。要するに「無常」の極限には人間の生死そのものがある。(22頁)

 方丈記のポイントは無常にあると著者は端的に指摘する。鴨長明が方丈記を書いた時代には、天災と人災とが多くあった。環境に恵まれない状況でも生きていくためのマインドセットとして無常観が大事であったのだろう。そして、無常観は現代を生きる私たちにも求められているものなのではないだろうか。では、無常のポイントとは何か。

 仏の教えはあらゆる執心つまり価値判断を断てと説いている。従って、「無常」論の本質は、あらゆる価値観を拒絶するものでなければならない。(148頁)


 何かに執着することを否定し続けることが、無常には求められるという。好悪や価値判断をすることは、対象に執着することである。そうしたものを否定し続けること。難しいことではあるし、完全に行うことは無理なのかもしれない。しかし、その状態を目指すことにも意義があるのではないだろうか。


0 件のコメント:

コメントを投稿