2016年3月26日土曜日

【第559回】『入門 組織開発』(中村和彦、光文社、2015年)

 HRの領域において、「組織開発」という言葉は、ビッグワードとしてなんでも吸収できる容れ物のように捉えられがちだ。本書を紐解けば、不必要なものまで取り入れようとせず、適切に組織開発の文脈に合致した施策を検討することができる一助となるだろう。組織開発という捉えどころが難しい概念を、丹念に、初学者がわかるように噛み砕いて説明された著者に頭が下がる思いである。

 組織開発とは何か。著者はウォリックの定義を日本語訳した「組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程」(Kindle No. 795)を以て組織開発の定義としている。この定義に基づいて考えれば、組織開発が捉える射程範囲が広いことは納得的であるし、他方であくまで対象は個人ではなく組織であることに留意すべきだろう。組織が対象としてなぜ取り上げられるようになったのか。その背景を著者は端的に以下のように述べる。

 現代は個業化が進む環境要因が多いので、関係性に対するマネジメントを何もしなければ、自然に個業化へと向かっていきます。そして、職場が個業的な関係になっているか、協働的な関係になっているかは、会社の風土や、職場のマネージャーのスタイルや姿勢が大きく影響します。そして、個業化した状態で個人の容量を超えた仕事をこなす状態が長期的に続き、上司や他のメンバーからの心理的サポートを受けることができない場合、うつなどのメンタルヘルスの問題が起こる可能性が高まります。(Kindle No. 534)

 組織とは、ハコモノでもあるが、その本質を関係性において捉えるとわかりやすい。関係性としての組織という観点に立てば、著者の言う個業化が進む現代の組織において、問題が内包されていることは容易に理解できるだろう。このように、扱う対象が組織であれば、組織や人を巻き込みながらビジネスを変革していくリーダーがその射程範囲に含まれることは自明だ。

 GEでの取り組みやマネジリアル・グリッドの考え方からすると、リーダー養成を通して組織開発を進めていくには次の要素が必要になってきます。
 ①理想となるリーダー像のモデルを浸透すること
 ②リーダーが職場で実践していくための仕組み(取り組みの推奨や場の設定、評価)が必要であること
 ③業績だけではなく、GEでのバリュー、または、マネジリアル・グリッドでの人に対する関心のように、人間的側面の軸を組織のトップが重視し、その浸透に本気で取り組むこと(Kindle No. 1339)

 GEにおけるリーダーシップ育成はあまりに有名だ。そのポイントを組織開発の観点から述べる著者の指摘には呻らさせられる。まず、マネジリアル・グリッドは手段に過ぎず、それによって理想となるリーダー像を可視化するという視点が興味深い。そうしたモデルを基軸に据えた上で、タレントが当事者として職場でリーダーシップを発揮できる様々な仕組みを統合していく。それぞれの仕組みはパズルのように当て嵌められるものではなく、有機的に組み合わせるためには、誠実に、本気で取り組むことしかないだろう。

 組織開発での究極的な問いは、「あなたはどのような職場や組織をつくりたいのか?」、さらに絞り込むと、「あなたはどのような関係性が育まれている職場や組織をつくりたいか?」ということだと私は考えています。(Kindle No. 1240)

 リーダーシップ開発であれなんであれ、組織開発を進める上で著者が掲げる主たる問いが投げかけるものは重たい。小手先のテクニックやアクションに走る前に、beingを組織のレベルで考え、それをメンバー間で共有し、個別の組織や人材に落とし込むこと。心して取り組みたい深みのある問いである。


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