2016年3月19日土曜日

【第556回】『坊っちゃん』(夏目漱石、青空文庫、1906年)

 以前は読んでもあまり印象に残らなかったのであるが、久々に読んだら面白く、するすると読めた。同じ作者の作品でも印象は異なるし、同じ作品でも読むたびに印象は異なる。小説とは、そうしたものなのかもしれない。

 野だの云う事は言語はあるが意味がない、漢語をのべつに陳列するぎりで訳が分らない。分ったのは徹頭徹尾賛成致しますと云う言葉だけだ。(Kindle No. 1177)

 痛烈な皮肉の表現であるとともに、近代社会への風刺と言えるのではないだろうか。程度の差はあれ、「野だ」のような人物とは身の廻りにいるものだ。

 その夜おれと山嵐はこの不浄な地を離れた。船が岸を去れば去るほどいい心持ちがした。(Kindle No. 2479)

 簡潔にして明瞭な心情の表現である。別れや旅立ちというものには涙が似合うものであろうが、こうしたサバサバとした表現もまた心地よい。


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