2016年3月6日日曜日

【第553回】『後世への最大遺物』(内村鑑三、青空文庫、1907年)

 NHKの「100分de名著」での『代表的日本人』の特集の際に、同著とセットになる作品として本書が挙げられていた。著者の想いがふんだんに盛り込まれる本書を読めば、その理由がわかるだろう。

 私はここに一つの何かを遺して往きたい。それで何もかならずしも後世の人が私は褒めたってくれいというのではない、私の名誉を遺したいというのではない。ただ私がドレほどこの地球を愛し、ドレだけこの世界を愛し、ドレだけ私の同胞を思ったかという記念物をこの世に置いて往きたいのである、すなわち英語でいうMementoを残したいのである。こういう考えは美しい考えであります。(Kindle No. 119)

 何かを遺すということを考えると、自分自身の虚栄心を満たすためのものと捉えられることもあるだろう。しかし著者は、世界や人々をどれほど愛していたかということの結晶が何かを遺すということであると述べる。崇高な想いに嘆息せざるをえない。

 それならば最大遺物とはなんであるか。私が考えてみますに人間が後世に遺すことのできる、ソウしてこれは誰にも遺すことのできるところの遺物で、利益ばかりあって害のない遺物がある。それは何であるかならば勇ましい高尚なる生涯であると思います。これが本当の遺物ではないかと思う。他の遺物は誰にも遺すことのできる遺物ではないと思います。しかして高尚なる勇ましい生涯とは何であるかというと、私がここで申すまでもなく、諸君もわれわれも前から承知している生涯であります。すなわちこの世の中はこれはけっして悪魔が支配する世の中にあらずして、神が支配する世の中であるということを信ずることである。失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信ずることである。(Kindle No. 621)

 では私たちが後世に遺すべきものとは何か。「高尚なる勇ましい生涯」という感慨深い言葉を噛み締めながら、生きていく中で見つけたいものだ。


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