2016年2月13日土曜日

【第546回】『「経験学習」ケーススタディ』(松尾睦、ダイヤモンド社、2015年)

 著者の『「経験学習」入門』は、経験学習を学ぶ最適の入門書にして最良のテクストの一冊である。その実践編とも呼べる本書では、経験学習のメソドロジーを実務に活かした事例がふんだんに解説されている。実務家にとってありがたいガイドブックだ。

 本書のポイントは、経験学習の定着を現場や個人の対応に任せるのではなく、しくみ化することである。著者は185頁において、異なる事例から学びを抽出し、サポートのしくみを以下の六つにまとめている。

(1)方針支援:バリュー・ビジョン、めざす人材像
(2)ジョブアサイン支援:人材育成(開発)会議、現場の改善・改革
(3)リフレクション支援:1on1ミーティング、振り返りワークショップ
(4)スキル支援:コーチング研修、指導経験の共有
(5)アセスメント支援:育成力の評価、1on1の効果測定
(6)経営陣による支援:経営陣の率先垂範

 職場において経験学習を導入する第一歩として、こうした六つの観点をもとに取り組むことは有効であろう。一見して模倣することが簡単なように見えたり、面白味を感じさせるというのは、秀逸な事例の条件と言えるだろう。以下では、とりわけ感銘を受けたポイントについて、述べていきたい。

 まず(4)について。コーチを担う対象に対してコーチング研修を行えば、コーチングを現場でできるようになるわけではない。ヤフーの事例で示唆的なのは、コーチのコーチを支援することの重要性である。毎週のピアコーチングや月に一度のシャドーコーチングを行うことによって「コーチのコーチ」を強化し、彼(女)らが他の管理職のコーチングを支援するのである。ベストプラクティスの共有を図るにはこうした取り組みの繰り返しが重要なのであろう。

 次に(5)については、昭和電工での事例が参考になるだろう。同社では、職場での指導者が新入社員に対してOJTを行い、入社6ヶ月後にアンケートによるフィードバックを行っているという。OJTは、ただ単に行えばいいというものではない。教育対象である新入社員各自に対して、効果がどのように出ているかをフィードバックし、それを以って改善していく仕組みがループが重要なのである。

 こうした個別の工夫とともに大事なのは、トータルで捉えて、しくみ同士を結びつけるという観点である。一つひとつを行うだけではせっかくの取り組みが定着せず、職場における日常の変化に対応できない可能性がある。したがって、個の観点とともに、全体の観点を踏まえて、愚直に結びつけるためにデザインし続けることが私たちに求められている。


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