2015年10月3日土曜日

【第495回】『白い巨塔(二)』(山崎豊子、新潮社、2002年)

 教授選が終わり、後の裁判へと繋がる外科手術へと至る第二巻。

 連日、教授選の工作に神経を磨り減らし、今また鵜飼医学部長から、場合によっては君を推したくとも、推せないと突き放され、今日まで自分のすべてを賭けて来たことが、不成功に終るかもしれない不安の中にたたされている自分と、そんなものと絶縁したところで静かに自分の研究を続けている里見との生き方の相違を、今さらのように感じた。(157頁)

 財前に感じる魅力は、完全無欠の人間であるかのような態度や言動を取る一方で、こうした弱い部分を併せ持つ人間らしさにあるのではないか。ふてぶてしいだけでは嫌みになるが、そこに弱さが加わると人間的魅力が生じるのであるから、おもしろい。

「じゃあ、術後肺炎を起しているんだろう、抗生物質で叩いてみろよ、僕はいささか酩酊気味だからな」(366頁)

 本書を最初に読んだ時から、このフレーズがなぜか記憶に残っている。財前の、およそプロフェッショナルとしての医師としてあるまじき台詞であるにも関わらず、である。一流の著者による言葉遣いの趣深さであろうか。

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