2015年9月19日土曜日

【第487回】『真田太平記(十二)雲の峰』(池波正太郎、新潮社、1987年)

 十二巻にわたる大作を読み終えた今、静かな感動をおぼえている。真田幸村の大坂夏の陣での活躍がハイライトであると思っていた私にとって、その後の真田信之を巡る物語は目新しいとともに、しんみりと読ませられるものであった。

 関ヶ原以来、信之は家康に対しての忠誠を徹底して、
「まもりぬいてきた……」
 のである。
 ゆえにこそ、草の者などに、目もくれなかったといってよい。
 隠密活動などに、伊豆守信之は全く関心をもたなかった。
 その姿勢が、家康の胸の内へしかとつたわったのであろう。
 そこが、だれにもまねのできぬことであった。(334頁)

 人が人からの信頼を勝ち取るということは、他者を信じぬくことなのであろう。信じぬくためには、覚悟が伴う。その覚悟が、相手に伝わり、信頼を得られる。真田信之が徳川家康から信頼を勝ち取り、その信頼を揺るぎないものにした様は、私たちが信頼という概念を学べる教材なのではないだろうか。

 真田伊豆守の行列は、保基谷・高遠の山脈に抱き込まれたかのような松代の城下町へ、しずかにすすんで行った。(505頁)

 上田から松代への国替えの命に従い、松代へ粛然と向かう真田信之一行の描写で、本シリーズは終わる。作品の最後の一文、とりわけこれほどの大部の最後に何を書くかは難しいに違いない。しかし、優れた小説の場合、最後の一文が着飾らない美文になっていることが多いように思う。本作もまた、そうした小説の一冊であることは、言うまでもないであろう。

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