2015年1月19日月曜日

【第406回】『医薬品業界 特許切れの攻防【後発vs新薬】激戦地図』(内田伸一、ぱる出版、2014年)

 スタッフ部門に勤務する人間ほど,ビジネス知識を意識的に取り入れる必要がある。ラインにいれば、実務を通じてバリューチェーンの少なくとも一部の実践知を自然と吸収することができる。しかし、スタッフ部門はそうではない。ともすると、機能分化した間接業務に埋没し、自社はおろか顧客や業界に関する生きた知恵と隔絶してしまう。そうしたギャップを埋めるために同僚や社外のステークホルダーと対話することが重要である。その前提として、対話を成り立たせるためには最低限の文字情報は更新していくことが必要だ。したがって、ときに本書のような書籍をもとに、自身の知識をチェックし、アップデートしていくことが肝要だろう。(と、サボりがちな自分を戒めてみた。)

 医療用医薬品に関する業界に属する方々にとって、本書はそうした目的に合致する書籍であろう。まず私にとって朗報であったのは、既に知り得ている内容や、より最新の情報を知っている部分がほとんどであったことである。率直に言って、安心したというのが正直な感想である。とはいえ、知識が整理しきれていなかった部分が多々あったのも事実であり、そうした部分を中心に、ジェネリック医薬品メーカーの立ち位置から見た3Cでまとめてみたい。

 まずはCustomerから見ていく。

 同一成分のジェネリックでもメーカーによってブランドが違っていて在庫管理が煩雑だったなどの理由から、ジェネリック使用をいやがる薬局も多く、傾向としては、こうした加算を利用している薬局はほぼ半分にとどまっていた。(131頁)

 一つの先発医薬品に対して、三十社を超えるジェネリック医薬品メーカーが後発医薬品をローンチすることも珍しくない。一方で、ジェネリック医薬品メーカーは、先発と比べて圧倒的に多品種生産をするため、一つ当たりの医薬品を潤沢に提供することは難しい。ために、品薄になるリスクを本質的に内包する。そうすると、調剤薬局がある患者にA社の薬剤を提供していても、ある日以降にその提供がストップすることが先発と比べて起りやすい。患者目線に立てばこうしたことは不安要素となり、その不満の吐き出し口は医者や薬局になる。ために、患者という顧客満足を重視するという当たり前の感覚を持てば、そうした薬剤は扱いづらい。そのため、ジェネリック医薬品は、調剤薬局に置いて扱いづらい部分があるのである。

 次にCompetitorについて。

 米国ではAGE(オーソライズドジェネリック)という制度があり、先発薬を扱っているメーカーが同時にジェネリックを扱う場合、特許が生きている間でも販売できるというもの。それこそ二重価格になって混乱すると思われるのだが、ジェネリック重視の行政の意志を示すものといえる。(122頁)

 AGEは純然たるジェネリック医薬品メーカーにとって脅威となるものであり、当然のように検討事項になっている。サノフィと日医工が2013年春に発表した国内初のAGEを記憶している方も多いだろう。先発にとってもジェネリック医薬品メーカーにとっても、こうした動きはウォッチする必要がある。

 長期収載品というのは、特許切れになったものの、ジェネリックと置き換えられることなく、従来通りに販売されている医薬品のこと。新薬メーカーの売上げ構成も、すべてが新薬でまかなわれるはずもなく、むしろ特許の切れた長期収載品の割合が6割以上というところがほとんどなのだ。(中略)
 その長期収載品の薬価を引き下げようというのだから、新薬メーカーにとっては影響が大きい。
 具体的には、ジェネリックが発売されて5年経過しても、ジェネリックが一定程度置き換えられていない長期収載品の薬価を最大2%引き下げるというもの。
①ジェネリック置き換え率が20%未満のものは2・0%(数量ベース)
②ジェネリック置き換え率が40%未満のものは1・75%
③ジェネリック置き換え率が60%未満のものは1・5%
 を、それぞれ“自動的に”引き下げるというのだ。(139~140頁)

 長期収載品もまた、ジェネリック医薬品にとっての主たる競合商品である。ブランド志向、安全神話が強い日本の独特な商慣習において、以前ほどではないにしろ、先発医薬品を重宝しジェネリック医薬品を嫌う顧客は依然として多い。その結果、長期収載品の売上高は、ジェネリックが浸透している欧米諸国では考えられないほどに高い。国民皆保険制度によって医療用医薬品の価格への感応度が相対的に低いことが、日本の独特な慣習を為す一つの主要な要素であろうが、それは国家の医療費負担に跳ね返る。したがって、政府としても長期収載品からジェネリックへの切り替えを進めているのである。

 最後にCompanyについて。

 生物学的同等性試験というのは、血中濃度の推移を図るもので、同一成分なのだから、先発薬と同じ変化を見せるものだが、必ずしも一致しない場合もある。溶出試験でも同じ。現在では試験がうるさくなったが、ジェネリック重視の前は、信じられないくらい、先発薬と推移が一致するものも多かったという。つまり、異なる添加剤を使っているのに、ぴったり先発薬と一致する、それはデータを操作しているとしか考えられないほどの完全な一致だった、というケースが少なからず見られた。(149~150頁)

 率直に言えば、私の最もあやふやな研究開発に関する知識を整理するために引用した。生物学的同等性試験、血中濃度、溶出試験、添加剤といった言葉は、個々には知っているが、このように文脈として理解できるのが、ありがたい。


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