2013年6月15日土曜日

【第166回】『言志四録(一)言志録』(佐藤一斎著、川上正光全訳注、講談社、1978年)

 佐藤一斎は、幕末および明治維新時に活躍した人物の思想的バックボーンとなった人物である。その門下には、横井小楠や佐久間象山がおり、佐久間の門下には勝海舟、坂本龍馬、吉田松陰、松蔭の門下には高杉晋作、木戸孝允、伊藤博文や山県有朋といった傑物が多い。近代日本を創った考え方を学ぶことは、現代の日本を考える上でも有効なことであろう。

【7 立志の功】立志の功は、恥を知るを以て要と為す。

恥という言葉は他者の目線を踏まえた外的な評価と通ずる部分が多い。しかし、訳注者はここでの恥という概念に内心に始まることも含まれていると解釈する。「天網恢々疎にして漏らさず」とも言うが、天という意識を持ち、価値判断を内部に置いて恥を知るという姿勢が、志を立てて実績を上げるためには必要なのであろう。

【27 大志と遠慮】真に大志有る者は、克く小物を勤め、真に遠慮有る者は、細事を忽にせず。

大きなことを行うためには、小さなことを行う必要がある。少なくとも、小さなことを他者とともにできるようにそのポイントを押さえておくことは肝要だ。さらに、遠大な目標を置くのであれば、些細なことをもスコープに入れる必要があるのだろう。

【120 己を失えば】己れを喪えば斯に人を喪う。人を喪えば斯に物を喪う。

自信を持つことが大事である。自信を失ってしまうと、自身の魅力が薄くなって友人をも失うことになる。友人を失ってしまえば、社会における自身のありかを失うことに繋がりかねない。

【130 急げば失敗する】急迫は事を敗り、寧耐は事を成す。

急ぎすぎると視野が狭くなり、本質的に大事な点が見えなくなってしまうものだ。落ち着いて忍耐強く好機の到来を待つ姿勢こそが、好機を掴むことにつながるのだろう。

【140 活きた学問】経を読む時に方りては、須らく我が遭う所の人情事変を把りて注脚と做すべし。事を処する時に臨みては則ち須らく倒に聖賢の言語を把りて注脚と做すべし。事理融会して、学問は日用を離れざる意志を見得するに庶からん。

心して読みたい一言だ。書籍を読む時には、ただ単に読むだけではいけない。自分自身の経験や既有の知識と結びつけて、考えながら読むこと。学問と仕事と日用とを区別せず、意義を一つずつ見つけ出すこと。

【144 聡明の横と竪】博聞強記は聡明の横なり。精義入神は聡明の竪なり。

幅広く多様な知識を広めることと、一つの分野を深く探求すること。二つとも大事であり、どちらか一方で良いということはないのだろう。

【239 読書の法】読書の法は、当に孟子の三言を師とすべし。曰く意を以て志を逆う。曰く尽くは書を信ぜず。曰く人を知り世を論ずと。

いずれも読書の際の至言であろう。第一は、自身の心をオープンにして作者の言わんとすることを理解しようとすること。第二は、オープンではあれども批判的精神を持って臨むこと。第三は、作者がなぜそうした書物を著したかという背景を理解した上で読むこと。


0 件のコメント:

コメントを投稿