2012年2月19日日曜日

【第71回】『条文から学ぶ労働法』(土田道夫ら、有斐閣、2011年)


 「条文から学ぶ」と銘打っている通り、労働法に関連する各法規の条文について、要件と効果とに切り分けて解説が為されている。法的三段論法の第一段階である規範定立を丹念に行っていることが本書の特長であろう。

 その上で、判例や学説を用いて、法的三段論法の第二段階であるあてはめに関する著述がされている。つまり、要件に事実関係を嵌め込んでいくことで事実を要件に包摂するわけである。この結果として第三段階である結論が出るわけであるが、本書を読んで改めて考えさせられたことは、いかに要件を構成する事実関係を導き出すかが大事であるという点である。労働者と使用者のどちらの立場に立つ場合であっても、両者の関係性に内在する要件と、それを構成する事実関係をいかに用意するかが結果を規定する。

 ここにおける使用者と労働者との主要な関係性は労働契約において成り立つと言えるだろう。労働契約は、労働者による労働の提供と使用者による賃金支払いの交換関係を基礎として構成される。つまり両者による有償の双務契約であり、これを著者は労働の他人決定性と名付けて説明をしている。労働の他人決定性という概念の素晴らしさは、民法632条の請負や同643条の委任と労働関係との違いをこの表現が的確に表しているからである。

 こうした雇用関係の基本を為す法律の一つとして労働契約法がある。労働契約法における最近の主要な争点として整理解雇の権利濫用法理があり、この論点においては四要件を用いて判例が整理されつつある。本書によれば、主張立証責任がそれぞれの要件によって異なると言われている。すなわち、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性の三つの要素については使用者が、解雇手続きの不当性については労働者が、それぞれ主張立証責任を負う。

 法律を現実の諸問題に即して学ぶということは、要件、効果、事実を整理し、主張する必要のある主体を意識する、ということにあるのではないか。もしそうであるとしたら、本書は、そうした法的思考の訓練を行う上で優れたテクストであり、読み返しながらじっくりと理解したい。


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