2011年10月16日日曜日

【第48回】『新版 富田の英文読解100の原則(上)(下)』(富田一彦、大和書房、2009年)

 大学受験の時に何度も読み直し、お世話になった参考書の改訂版が本書である。浪人を覚悟し、その承認を親から得るまでしていた私が、第一志望と第二志望の大学に合格したのは本書のおかげである、といっても過言ではない。
 
 英語を学ぶこと、とりわけ英文読解の力を向上させることは、論理的思考力を用いることである。この物言いに反論を持たれる方もいるだろうが、私は大学受験を経てそう確信し、また四カ国語を操る同僚の某ポーリッシュなナイスガイも、語学を学ぶ要諦は論理的思考にあると言っていた。当時、数学しか能のなかった私が、数学的思考を論理的思考に敷衍し、それを英文読解に応用できるようになったのは本書に依るところが大きい。

 本書中で筆者が何度も述べていることは「暗記やフィーリングに依存して回答を出すな」ということである。たとえば、有名な熟語に一致する単語がそのままの順番で並んでいても、それだけでその熟語の訳を当てはめてはいけない。そうではなく、その一文の構造を把握し、その上で文の要素を当てはめて読解する必要があるのである。さらにいえば、試験問題の作問者は意地が悪い方が多いから、もとい受験者の論理的思考力を問おうとする方が多いだろうから、そうした引っ掛け問題が用意されるのである。

 では文の構造を把握するためにはどうすれば良いのか。詳しくは本書で述べられている100個の原則を熟読いただきたいが、一言で言えば動詞に注目することが肝要である。英文を読む際に、動詞の何に注意するかについて筆者が述べているのは、大まかに次の二つである。

 第一に、文に含まれる動詞の数を数えること。これによって、その文にいくつの節があるのかが判定できる。節の数と範囲が分かれば、その文のどこが主節で、従属節なのかが分かる。そうすれば文全体の意味を導出することができるのである。また、従属説の意味が分からなくても、主節の意味が分かれば大まかな意味を取れる、というように読み方に濃淡を付けることもできる。

 第二に、動詞がどのような文型を取るかを意識することである。その動詞が導く文法構造、いわゆる五文型を把握していれば、動詞以外の文の要素を判断することができる。したがって、英文読解のためには、最低限、動詞だけは暗記をする必要があると言えるだろう。それぞれの動詞がどのような文型を導出し、それぞれに応じてどういった意味を持ち得るのか、を知悉していれば、関係詞や同一構造の省略や倒置法を見抜くことは決して難しくない。違う側面から言えば、動詞さえきちんと覚えていれば、名詞や形容詞のうちの7~8割は推測できるし、副詞は文の要素にならないのだから覚える必要はないとも言えるだろう。

 こうした参考書を推奨する際には、どういった対象にとって有用であるかを述べることも大事であろう。まず前提となる英語のレベルについて。あくまで目安になるが、中学卒業までの、すなわち義務教育レベルの英文法が「なんとなく」頭に入っていれば問題なく読めるのではないだろうか。したがって、たとえば、五文型とはSV、SVC、SVO、SVOO、SVOCの五つであることを忘れている方にとっては、本書を読み進めるのは苦行であろう。本書を読む前に「中学英語を学び直す」といった類いの本を読むことをお勧めしたい。

 また、文章を読む際の態度の嗜好によっても、本書をお勧めできる方とできない方があるように思う。冒頭でも述べたように、数学が好きな方には本書を強く推奨できる。また、私は大学受験の際に数学的な論理思考を用いて現代文や古文を論理構造で把握でき、得意科目にできたので、数学と現代文や古文とは親和性があると考えている。したがって、私と同様の試みをされて現代文や古文が得意だった方にもお勧めできるだろう。違う言い方をすれば、文章とは感受するものであると考え、論と理を用いて冷静に読み解くことに窮屈さを感じる方には、本書はお勧めできないのかもしれない。これは、そうした読み方を否定するものではなく、あくまで態度の違いによるものであることは、誤解なきようにご理解いただきたい。






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